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プロローグ

晴れやかな青空の下、少女が街の中を駆けていく。
 少女たちが人知れずのヒーローとなってから早数ヶ月。そこにはいつものハイカラシティの光景が広がっていた。
 待ち合わせ場所で友人たちと落ち合った少女は、談笑しながらイカスツリー内へと入っていく。その様子を物陰から盗み見ていた者がいることなど、このときは誰も知る由がなかった。
 紫色の地面。その上にぽつぽつと残る黒い跡。
 その者は不意に唇を噛んだ。誰かが、後ろ指を差したのが横目に映る。
 青い線。そして、何かに畏怖する少年の見開かれた目。
 自分を指差したまま、知らないイカが叫ぶ。それは威嚇していると同時に、怯えているようだった。
 少年の肩に置かれた手。青いインクを纏った幾つものブキ。
 もうここにはいられない。その者は踵を返して、ある場所へと真っ先に向かう。ふと、誰かにフクを掴まれたような気がして、振り払うように走り出した。
 大きくて奇怪な影。そして、真っ黒な…
 ツリー前の目立たない場所で立ち止まる。目の前には果ての見えないマンホールがあった。
 少女の泣き叫ぶ声。駆け出した少年の後ろ姿。
 ――――その速さ、疾風の如く。
 次の瞬間、苛まれ子はその場から溶けるように姿を消した。

 同じ頃、別の少女がハイカラシティに姿を現す。
「まさか、そんなことが……?」
 少女は呟くと、手にしたイカスマホを強く握り締めた。
 『クロサメ』のハコフグ倉庫襲撃事件から数ヵ月経った今。少女たちに、新たな魔の手が忍び寄ろうとしていた。

 黒雨の夜
 A RESCUE OPERATION
 ――――信じていて……必ず、助けるから。

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