PROLOGUE
『我々がナワバリバトルに革命をもたらす!』
ハイカラシティの巨大モニターに映し出された文字。それを見て、どよめくイカたち。「一体誰がこんなことを……!」そう叫ぶ者もいた。
人ごみを掻き分けて、俺はモニターの真下まで来た。
これをやったのは、間違いなくあいつだ……。ほくそ笑む姿が、容易に想像できる。
「ど、どうしよう……!」
「慌てるな。おそらくバトロイカも黙ってはいないだろう。すぐに体裁が下る」
そのときの俺は全く以て愚かだった。すぐに手を打っていれば、こんなことには……。
『我々はこの状況を打破できずにいる……』
『このままでは奴らの計画が更に進行するだろう』
『すぐにリスポーン・デバイスの停止を! 奴らに奪われた分だけでなく、この世界に現存する全てのリスポーン・デバイスを止めなければ……』
その日から、俺たちはナワバリバトルを禁じられた。しかし……相手の追撃が止むことは無かった。徐々に黒く染まっていく。街も、住民も、何もかも……。
「奴の好きにはさせん」
誰もいないハイカラシティで、ブキを取った。忌々しい文字を浮かべていたモニターに銃口を向ける。背を向ける頃には、亀裂の入った画面に水色のインクが滴り、白と黒に点滅するだけになっていた。
その夜、ハイカラシティは大雨に見舞われた。イカスツリーの下で、空を見上げる。『クロサメ』。あの集団は自らをそう称していた。
「雨が止まなければ、白い月も見えない……か」
徐々に雲が薄れ、僅かながらそれは姿を見せた。でも、あれではきっと、拭い去れないだろう。
「ではこの手で、雨を晴らしてみせる」
水たまりの残るハイカラシティに歩を進め、正面を睨んだ。許されざる革命には正義の報復を。『シロツキ』が見えるその日まで、俺は奴らを追い続ける。
あぁヤダヤダ。あんなにアタマに血が上ってちゃ、ロクに話もできやしない。
かつてのナワバリバトルが消え、アタシたちが事実上この世界を掌握してからしばらく。アイツは幾度となくアタシたちを追いかけ回してきた。元から頑固そうな顔を更に引きつらせて、問答無用でアタシ側のイカたちを「殺し」ていく。噂じゃ、考えを改めてこちら側に来ようとしたヤツらまでそのやたら重そうなブキで蜂の巣にしているらしい。
「それがアンタの考え方か……」
だからジジイって呼ばれるんだよな。いい加減気づけばいいのに。
そうしてソイツはまたしてもアタシたちの前に現れた。団員を複数連れているあたり、多少の団員からは信頼されている様子だ。
「認めてやるよ……アンタみたいなカチコチアタマのクソジジイでも、少なからず人望はあるんだってな!」
ま、アタシはあんなヤツの下僕になるなんてまっぴらごめんだけどね。心の中で呟きながら、ブキを構えた。
「さぁアンタたち! アタシについてきな!」
真っ向から睨んでやった。勿論相手も鋭い眼光をこちらに向ける。可愛い色の目してるクセに、当人には可愛い要素なんて1つも入っちゃいなかった。
「見せつけるんだよ! ……アタシたちに立ち向かおうなんて、100年早いってことをね!」
かつてのナワバリバトルは不完全だった。しかし、イカたちは皆何かに囚われたようにハイカラシティへと足を運ぶ。アタシもその1人だった。でも……
「この場所は、苦しみばかり生んでいるじゃないか」
そう言ったアタシを、他の者は『黒』と呼んだ。反逆者だ、考え方が間違っているのだと。
「アンタたちの考え方が『白』なら……空から黒い雨でも降らせて、この世界をその1色に染め上げてやる」
そうして全てを実行した。すると、目を覚ましたヤツらが、すぐにアタシの下へと集った。
「これはアタシたちの感情そのものだ。そして、2度と止みはしない」
この狂った世界に『クロサメ』を降らせよう。そして、全てを洗い流した後で、新しい色に塗り替えていくんだ。
そのためには……目の前にいるアイツらを、塗り潰さなければならない。例え、どんな手を使ってでも……。
灰色のハイカラシティで、2人のイカがお互いに背を向けて立っている。次の瞬間、2人は相手の顔にブキを突きつけ、目を合わせた。
「これは貴様らに対する我々からの『報復』だ」
「アンタらは『革命』を成し遂げるには邪魔なのさ」
水色のボーイの持つブキが、低い音を立てて唸り始める。黄緑のガールは、そのアタマをゆっくりと黒に染めていった。
「もう2度と帰ることはできんぞ……!」
「それはこっちの台詞だよ! クソジジイ!」
一瞬の沈黙。そして、遂にその指先が動いた。
「「さぁ、戦いを始めよう」」
染まりきらないモノトーン。塗り替えるのは、彼か、彼女か。それとも……