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EPISODE:03

 朝方、その報せは突然飛び込んできた。
「大変だ! クロサメが動き出したらしいぞ!」
 イカノメTライトブルーを着たボーイ――――空木が拠点内に駆け込んでくるなり、その場にいる全員にそう告げた。
「場所は?」
「えっと、確かハイカラシティ沿岸だから……モンガラキャンプ場に向かってるのかな? とにかくものすごい速さと人数らしい!」
 空木の説明を聞いて、シダレは1度目を閉じる。
「どうするんだ?」
「移動スタイル、そしてその規模を考慮するに……おそらくクロサメそのものが本格的に動きだしたのだろう」
 タイショウのまえかけを身につけたボーイ――――アカギリが質問すると、シダレは目を閉じたまま言った。誰かが息を呑む音が聞こえた。
「全員、直ちに出撃準備を。相手が攻めてくるというのであれば、待ち伏せして迎え撃つまでだ」
 シダレは目を開き、手を挙げる。シロツキのメンバーたちは頷くと、皆それぞれのブキを手にした。
「おに……シダレ様、私はどうしましょうか?」
「お前には俺の護衛ではなく、別の任務についてもらう。今から言う者を集め、1度俺の元へ召集しろ」
 シダレはそう言うと、名前を順に上げていく。それを聞いたヒメリが頷いて、駆け出した。
「全員、準備ができたみたいだぜ」
 シダレを含む大勢のイカたちが拠点の大部屋にへ移動してから程なく、ジップアップカモを着た片足を欠損しているガール――――ハーネスがシダレに言った。
「各自作戦の準備を。先軍は俺が指揮を取る」
 シダレは立ち上がると、ハイドラントを右脇に構えた。
「いつも通り誘導隊が先に行け。その後特攻隊、狙撃隊、支援隊が向かう。極力連携を乱さず、妙な動きがあればすぐに報せろ」
 シダレが再び手を挙げると、出撃専用のシャッターが自動で開いていく。朝の陽光が、正面からシロツキのイカたちを照らした。
「作戦……開始!」
シダレの掛け声を聞き、イカたちが一斉に走り出した。

『――――大軍が行くという偽の情報を、敵側の誰かが報告してくれたみたいです。1次作戦は成功ですね』
「よくやった、シド。後はショッツル鉱山の敵拠点で指示に従いつつ、ヤツらの動きを把握してくれ」
 アオイはイカスマホ越しにヒーロージャケットレプリカを着たボーイ――――シドに次の指示を出した。
『了解です……あっ』
『ねぇねぇ、誰と話してるの~? あたしも聞きたいな♪』
『ちょっとした知り合いだよ、ロイン。それより、リーダーから作戦指示が出てるだろ? 僕たちも行かなきゃ』
 そんな会話を尻目に、通話は途切れた。
『リーダー、こちらもハコフグ倉庫に到着しました』
「オッケー。さて、『囮組』の方も順調みたいだし……アタシたちもすぐに向かうよ」
 タイシャツの上にクロサメのロゴをあしらったマントを羽織ったガール――――スズハからの連絡を受け、アオイはその場にいるメンバーたちに言った。イカスツリー前には、全体でも半数以上の団員が集っている。
『ビーコン、設置した。跳べる』
 オキナの声がする。アオイは「あぁ」と呟き、ニヤッと笑った。
「全員、スーパージャンプの用意を。すぐに出発するよ」
 アオイはそう言うなり、自分もイカ形態になる。そして、勢いよく空へと飛び出した。
「先にリスポーンデバイスを確保しな。物資調達はそれからでも十分できる。それと、黒インクは使わないこと。万が一何かあったらそのときは迷わず使いな」
 ハコフグ倉庫の入口に着地すると、アオイは周囲にそう告げた。すぐにメンバーが散らばり、詮索に向かう。
「そっちはどう?」
『先ほど、遠方にスピナーと思われる弾丸と、幹部を始め複数のシロツキと思われる奴らを目視した。じきにキャンプ場内へ入ってくるだろう』
 アオイのイカスマホから、フェイスゴーグルとパワードスーツが特徴的なボーイ――――フラッグの声がした。
「どうやら作戦はバッチリみたいだな。頃合いを計って、こっちに来てくれ。こちらには黒インクがあるとはいえ、ジジイや大勢の相手は危険すぎる」
『リスポーンデバイスは?』
「できれば欲しいけど、ハコフグ倉庫さえ奪取できれば問題ないよ。無理はしないように」
 アオイはイカスマホを耳から話すと、倉庫内を歩き始める。ステージの2箇所は確保しておくか……そんなことをぼんやりと考えながら、周囲のコンテナに目を光らせた。
「1つ目のリスポーンデバイス、確保しました」
 スズハが正面から早足でやってきて、アオイに報告した。
「よし、これでシロツキのヤツらが来たとしても問題ないな……このあともリスポーンデバイスを確保しつつ、倉庫内の必要な物資に目をつけておいてくれ」
 スズハが頷いて、また何処かへと去っていった。アオイもコンテナの角を曲がり、ステージのある方を目指す。
 そういえばここ……あのときの…………。一瞬、見知った笑顔がアタマをよぎる。しかし、目を瞑ってその回想を振り払った。
「アオイ、電話」
「え?」
 いつの間にか横にいたオキナが、アオイのスマホを指差す。アオイは慌てて受話器のマークを押すと、電話に出た。
「もしもし? どうした……」
「リーダーですか? フラッグさんが前線に出て行っちゃったから、あたしが緊急で連絡してます!」
 突然、イカセーラーホワイトを着た、イカ足がツインテールになっているガール――――ルビィが切羽詰ったような口調で言った。
「緊急……? 一体何が?」
 アオイが顔をしかめている脇で、今度はオキナがイカスマホを取り出した。
「何?」
「リーダーの方に繋がらなかったから、オキナさんの方にかけたんですけど……どうやら、こっちの作戦が相手に見抜かれ……」
「くだらん会話は済んだか?」
 その声を聞いて、アオイは空間が一気に冷え切ったように感じた。そして、ゆっくりとそちらを振り向く。
「なんで……アンタがここに……」
 アオイは歯を食いしばり、唸る。その視線の先には、宿敵シロツキのリーダーである、シダレがいた。
「包囲しろ! クロサメの団員を1人たりとも逃すな!」
「どうして!? シロツキの大軍はモンガラキャンプ場に行ったはずじゃ……」
 コンテナ越しに、シロツキ側が指示を出す声と、クロサメ側の混乱しきった声が入り混じって聞こえてくる。「チッ……!」アオイは思わず舌打ちをした。
「スピナー、ヒメリ、モンガラにいた。何で……?」
「スピナー使いなど、俺以外にいくらでもいる。ヒメリは貴様らに勘付かれないためのカモフラージュだ」
 シダレがハイドラントのトリガーに手をかける。
「わざわざ沿岸のルートを選んでおきながら、動きが目立ち過ぎていた。囮と考えるのは当然だろう。……敵を引き付けるための演技が仇となったな」
「クソッこれだから嫌いなんだよクソジジイは……!」
「アオイ、守る。だから……」
 オキナが何か言いかけたが、アオイは首を振った。
「いいや。アンタは他のところへ行きな。アイツは……アタシがやる」
 アオイはオキナを見る。オキナが目を合わせると、ゆっくりと頷いて、その場を跳び去った。
「まぁいい……アンタがここにいるってことは、モンガラの方も人数は五分五分。これで、どちらのリスポーンデバイスも確保するチャンスができたってワケだ」
 アオイは一瞬ニヤッと笑うと、イカスカルマスクに指をかける。そして、空いた手で懐からボールドマーカーネオを取り出した。
「ここアンタを含めたシロツキ全員をブッ潰して、一気にナワバリを広げてやるよ!!」
「そんなこと、こちらがさせると思うか?」
 両者がブキを構え、向き合う。沈黙の後、双方が一斉に動き出した。
「覚悟しな、クソジジイ!」
「貴様は俺の手で葬る!」
 アオイのアタマが黒に染まる中、ハイドラントの弾丸が一気に周辺を水色に染め上げていく。『革命』と『報復』。ジャッジはどちらに旗を上げる……。

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